控除率引き下げ

JRA、払戻金アップへ…売り上げ増狙い競馬法などを改正 (sanspo.com)
競馬法改正で控除率引き下げ (Sponichi Annex)
払戻金アップ1000円が1060円に? (nikkansports.com)
払戻金控除率引き下げへ 政府が競馬法、競馬会法改正案(スポーツ報知)
記事が出てから若干時間の経ってしまった感はありますが,いよいよJRA控除率について考え始めたというところでしょうか.現在の控除率は,単勝複勝でおよそ20%,その他でおよそ25%という率になっています.米国では大体17%くらいが主流.控除率引き下げは馬券を購入するものからすれば,とても嬉しい措置です.
しかし一方で,控除率引き下げが競馬事業の困窮をもたらすという意見もあります.
控除率須田鷹雄のコラム)
JRAが控除率引き下げか(座布団が行司にクリーンヒット)
競馬法改正で控除率引き下げ : Sponichi Annex(昨日の風はどんなのだっけ?)
一番上のリンクでの須田鷹雄さんは,「きちんとした試算に基づくものなら参考にしたいが、いまのところ計算に基づく引き下げ論というものは無いように思う」とのこと.その上で,控除率の引き下げは普通に考えれば支出を増やすものなので,JRAの収支に影響を与えて困窮させてしまう,という感じでしょうか.残るリンク先は,須田鷹雄さんのコラムを受けて,JRA困窮→影響の心配をしています.
国とJRAの配分の問題もありますが,単純に売上最大になるような控除率はどのようなものか.25%という控除率は,ちゃんと売上の最大化を考えられて設定されたものなのか.確かに日本における試算は見たことありませんが,米国には試算したような議論が学術的にあります.

  • Gruen, Arthur "An Inquiry into the Economics of Race-Track Gambling", Journal of Political Economy 84, 1976.

まー,かなり昔の論文ではありますが,最近の論文でもそう違った結果が出ているようには見受けられません.分析対象は1940〜1969年のベルモントパーク.賭けの数が控除率からどういう影響を受けるかという分析です.控除率のほかに考慮すべき問題は,馬券購買者の所得がどうか(一人当たり実質所得),賭けへの心理が楽観的かどうか(失業率が4%以下かどうか)*1.分析結果は,控除率は期待したとおり負の効果がある点.控除率が上がれば,当然払戻が減少するので,あまり競馬で賭けをしたいと思わないわけなんですね.
さて,控除率が下がれば売上は上がるという結果は得られましたが,売上が一番大きくなる控除率はどういうところでしょうか.直観的な説明は須田鷹雄さんのコラムにありますが,この論文では,1969年において大体14.88%のところ,という計算結果を得ています*2.日本と米国の環境が完全に共通しているものとは考えづらくはありますし,時間も随分経った計算ではあります.ですが,一応ちゃんと学術的にも試算された結果はありますよ,ということで,20%台の控除率は高い(というか,高すぎる)という主張を補強する一つの論拠にはなるかと思います*3

*1:他,戦時中かどうかということも考慮しています.

*2:この時期の実際の控除率は17.16%です.

*3:他,馬券を購買しようかしまいか考えているボーダーの人の所得をしっかりと調査し,その所得を元に機動的に控除率を設定する必要性がある,という論拠にもなります.